段階的開示-ARCS動機付けモデルをウェブマーケティングに活用する

段階的開示-ARCS動機付けモデルをウェブマーケティングに活用する

「段階的開示」「ARCS動機付けモデル」をご存じでしょうか。たくさんの情報を適切に開示することで、「伝えやすく」して「理解しやすい」にする手法の一つです。さまざまなメディアでも伝えられていますが、「紙」の媒体はデジタルに比べて情報の理解が高いと言われています。ウェブマーケティングでは「情報を伝える」という役割があります。画面を通して、閲覧者により情報の理解と伝達を行うための方法として、教育分野などで使われてきた「ARCS動機付けモデル」をベースにした段階的な情報開示手法が、ウェブマーケティングでも活用されています。このアプローチは、1983年にケラー教授によって提唱された教育理論を基に、情報をただ提供するのではなく、計画的に開示していくことで、より効果的なマーケティング成果の実現を目指すものです。この記事では、手法の基礎からウェブマーケッティング領域における活用方法まで、わかりやすく紹介していきます。

段階的開示-ARCSモデルとは

段階的開示-ARCSモデルは、情報を効果的に伝え、受け手の関心を持続させながら、最終的な目標達成まで導くための体系的なアプローチです。このモデルの核となるARCSは、以下の4つの要素から構成されています。

Attention(注意)

  • 受け手の興味を引く
  • 関心を持続させる
  • 好奇心を刺激する
  • 意外性のあるグラフィック

Relevance(関連性)

  • 個人的な価値と目標の結びつき
  • 目的意識の明確化
  • 既存知識との新情報の関連付け
  • 実線的な応用可能性の提示

Confidence(自信)

  • 段階的な達成感の提供
  • 理解可能なペースでの情報開示
  • 成功体験の積み重ね
  • 開示情報による過去経験との共感

Satisfaction(満足感)

  • 知識獲得の実感
  • 新しい価値の発見
  • 目的達成への道しるべ
  • 内発的動機付けの強化

ARCSモデルの提唱者

このモデルは、1983年にフロリダ州立大学のジョン・M・ケラー教授によって提唱されました。元々は教育分野での学習意欲向上を目的として開発されましたが、その効果的なアプローチはマーケティングの分野でも活用され、マーケティングに限らず学術的な記事として紹介されるなど現代においても活用をされています。

ケラー教授は、人間の学習プロセスを詳細に研究し、効果的な学習には「動機付け」が重要な役割を果たすことを発見しました。この発見は、現代のデジタルマーケティングにおける情報提供の方法にも大きな示唆を与えています。

なぜ段階的開示が良いのか

段階的開示が効果的である理由は、人間の情報処理メカニズムと深く関連しています。人間の脳は、一度に処理できる情報量に限界があり、大量の情報を同時に提供されると、重要な点を見逃したり、理解が不十分になったりする可能性があります。

購買行動モデルとの関連性

段階的開示のARCSモデルは上記の通り「人間の学習プロセスを詳細に研究し、効果的な学習には「動機付け」が重要な役割を果たす」とあります。つまりは購買行動のモデルとのフレームワークと繋がる点が多く存在します。

購買行動のモデルでは「いつ」「だれに」「どのような」「行動」「体験」により「結果」と「共有」がもたらされるかに注力している点に対して、ARCSモデルの段階的開示では「情報」に注力している部分が異なるポイントです。
この方法を組み合わせることで購買行動の各フェーズに置いてどのような情報を開示するべきか検討が可能となります。またウェブサイト、広告、SNSで、どのような情報を打ち出すかのヒントになるため、購買モデルと合わせて考えるとより有用に扱うことができると言えます。

段階的開示は身近に使われている

ビジネスであれば、新製品やサービス発表で情報が段階的に露出されているケースがあります。教育分野においては学習者の理解や習得に合わせて徐々に難易度をあげていく。エンターテインメントのケースでは映画であれば、ティザーサイトがあり、出演者情報、ストーリーなどが発表されていくケースがあります。またゲームでは動画のトレーラーが分かりやすい例の一つです。新たなる新天地、導入された武器などの紹介動画やサイトが段階的にリリースされているなど、身の回りでは多くこの手法が利用されています。

段階的開示のメリット

認知面でのメリット

  • 情報の消化・理解が容易になる
  • 記憶の定着率が向上する
  • 重要ポイントの把握がしやすい
  • 情報の関連性が理解しやすい

心理面でのメリット

  • 情報への期待感が持続する
  • 達成感を段階的に得られる
  • モチベーションが維持される
  • 自発的な情報探索が促進される

上記のようなメリットもありますが、「情報開示に時間が掛かる」「計画的な情報管理が必要」「情報が途中で漏洩するリスク」「開示タイミングを誤ると不信感を招く可能性」などのデメリットもあります。特に未確定で途中で内容が変わる事柄については、後から軌道修正がし難くなるケースも考えられます。
ある程度決まっていることを段階的に露出していかないと、逆に不信感を招き、消費者やユーザーの信頼を損ねる可能性があることを認識しましょう。

[例]段階的開示を利用する際の流れ

段階的開示を利用する際には以下に挙げるステップを検討しましょう。媒体や業界、情報の属性によって変わる部分がありますが、概ね汎用的な意味を掲載しています。以下は流れの例として参考にしつつ、実際に開示する情報属性と照らし合わせて利用してください。

  • Step 1: 情報の分類と優先順位付け
    • 基本情報と詳細情報の区分
    • 必須情報と補足情報の分類
    • 情報の関連性の整理
  • Step 2: 開示タイミングの設計
    • ユーザーの理解度に応じた調整
    • 興味・関心の持続を考慮
    • 適切な間隔の設定
  • Step 3: フィードバックの収集と分析
    • ユーザーの反応モニタリング
    • 理解度の確認
    • 改善点の特定

Webサイトでの段階的開示の活用

Webサイトは、段階的開示を最も効果的に実践できるプラットフォームの一つです。特に新商品の発表やサービスの紹介、教育コンテンツの提供において、その効果を最大限に発揮することができます。

新商品・新サービスの発表での活用

  • Phase 1: ティザー段階
    シルエットや一部分のみを公開し、製品への期待感を醸成

    • 製品の特徴的な部分を暗示する画像の使用
    • カウントダウンタイマーの設置
    • ティーザー動画の公開
  • Phase 2: 基本情報開示
    製品の基本的な特徴や概要を公開

    • 主要な機能や特徴の紹介
    • 製品デザインの全体像の公開
    • 基本スペックの公開
  • Phase 3: 詳細情報開示
    製品の詳細情報や技術的な特徴を公開

    • 詳細な技術仕様の公開
    • 使用シーンの具体例紹介
    • ユーザーメリットの詳細説明

資格・教育関連コンテンツでの活用

教育関連のWebサイトでは、学習者の理解度に合わせた段階的な情報提供が特に重要です。効果的な学習体験を提供するために、以下のような構造化されたアプローチが有効です。

基礎レベル

  • 基本概念の説明
  • 入門者向けの実践例
  • 基礎用語の解説
  • 簡単な演習問題

応用レベル

  • 発展的な概念説明
  • 実践的なケーススタディ
  • より複雑な演習
  • プロジェクト型学習

資格取得関連サイトの活用

資格取得のサイトでは、非常に多くの資格を掲載しているケースがあります。どのページもテンプレートになりがちですが、可能であれば資格の難易度、情報量に合わせ、ページやコンテンツ量を調整することが必要になります。
また資格では資格の概要、取得した際に利用価値、資格取得するまでの流れ、学習範囲、学習コースのプランや内容、学習期間、プラン料金、教材、補助教材、試験日、試験方法、試験の申込、学習プランの申し込みなど知るべき要素が多いため、ユーザーの理解、知りたい情報の種類に合わせたページ作り、コンテンツ作りが求められらます。

資格について

  • 資格の基本情報
  • 資格取得対象者
  • 資格取得までの流れ
  • 取得後できるようになること

学習について

  • 学習範囲
  • 学習コースのプラン
  • プラン料金
  • 教材・補助教材
  • 学習プラン申し込み方法

試験について

  • 試験日
  • 試験方法
  • 試験の申し込み方法
  • 試験に必要なもの

補助コンテンツ

  • 合格者の声
  • 資格取得後の就職先
  • 過去の問題集
  • 合格発表

情報の見せ方とポイント

多様で多量な情報をコンテンツとしてウェブ上で見せるケースが多いと思います。ただ情報をウェブ上に掲載しただけでは見難いと感じる場合があります。特にテキストのみで構成されたページはどうしても読みにくく、読むためのハードルも上がります。

ウェブコンテンツではさまざまな技術や見せ方があるため、これらの「見せ方」を工夫することで、ただのテキストでも見やすく、理解しやすい状態にすることが可能です。下記にその一例を記載しますので、実装する際に検討してみてください。

実装要素 具体的な手法 期待される効果
コンテンツの階層化 タブ、アコーディオン、モーダルの活用 情報の整理と段階的な表示
インタラクション設計 スクロールアニメーション、クリックイベント ユーザーエンゲージメントの向上
プログレッシブ開示 スクロールに応じた情報表示、遅延ローディング 情報の消化率向上

Web広告での段階的開示の活用

リスティング広告、ディスプレイ広告、特定ソーシャルアプリでの画像、動画広告などのWeb広告では、限られた枠組みの中で情報を伝える必要があります。例えばInstagramでカルーセルを使う場合は段階的な広告を「画像」を使うことで見せ方を検討することができます。
これがリスティング広告となると「テキスト」で情報を伝えるため、そのあとに続くランディング先のウェブページでどのように見せるか。という点を検討する必要があります。

ユーザーの興味を段階的に高め、最終的なコンバージョンまで導くためには、利用する広告プラットフォーム、ランディングページ(LP)にどのような情報を段階的に提示していくかがポイントになります。

広告の段階的開示活用の流れ

  • 設計フェーズ
    • 開示情報の分類と順序分け
    • 広告開示情報とLP内の開示情報の検討
    • 広告プラットフォームの選定
    • LPの設計と制作
  • 認知フェーズ
    • インパクトのあるビジュアル使用
    • 簡潔なメッセージ設計
    • ブランド認知の形成
  • 興味喚起フェーズ
    • 製品・サービスの特徴紹介
    • ユーザーベネフィットの提示
    • 具体的な使用シーンの表示
  • 行動促進フェーズ
    • 具体的な価値提案
    • 限定オファーの提示
    • 明確なCTAの設置

上記が主な流れになりますが、実際の例を挙げて流れを確認した方が分かりやすいと思います。

ウェブ広告の活用例(クリスマスケーキ編)

  • 設計フェーズ
    • とある有名芸能人を起用したクリスマスケーキのコラボを実施
    • 開示情報としては「予告」「開発」「コラボケーキお披露目」「グッズ・販売日」の順
    • 芸能人は若年層~30代までに人気があるため、「Tiktok」「Instagram」をメインとして他プラットフォームはお試しで配信。画像、動画がメインの広告
    • LPは情報開示に合わせた内容で制作を進める。特にコラボする芸能人、商品のクリスマスケーキが主体になるように最上部のメインビジュアルで魅せる構成にする
  • 認知フェーズ
    • LPのメインビジュアルと同様のインパクトのある予告編となる広告を配信
    • 秋口にリリースしたLPに予告内容を掲載
  • 興味喚起フェーズ
      第1弾
    • 予告が終わり開発段階
    • コラボ芸能人との開発中の映像や画像を撮影
    • 「開発中!」をメインとした広告を配信。合わせてLPの内容を追加・更新
    • 第2弾
    • 開発が終わり芸能人+開発ができたケーキを紹介する画像、動画を制作
    • ケーキ開発後の広告配信を開始。LPの内容も完成したケーキの画像を添え。開発秘話、特長、美味しさなどを訴求する
  • 行動促進フェーズ
    • 販売日、価格、販売数などを記載した広告を配信
    • コラボケーキ購入者にもれなくグッズが付いてくる広告も配信
    • LPを広告配信内容に合わせて更新し、予約ができるフォームを追加

ランディングページ設計のポイント

ウェブ広告のランディングページでは、鉄則として配信する広告内容との文脈が一致する必要があります。上記「クリスマスケーキ」の例では開示する情報とLP内容を合わせていることが分かるかと思います。また配信内容も「クリスマスケーキ」としており、決してゴルフ用品など関連性が無い内容とLPではない点が重要です。
ランディングページでは、広告で喚起した興味をさらに深め、具体的なアクションにつなげる必要があります。段階的開示を活用した効果的なLP設計のポイントは以下の通りです:

構造設計

  • title、メタ要素を広告内容に合わせて設計
  • 段階的な情報展開する構造手法の検討
  • 表示速度、レンダリングに関わる技術確認
  • コンバージョンフォームの導入

コンテンツ設計

  • 興味・関心に関わるビジュアル制作
  • 具体的なベネフィット
  • 価値の獲得と提供するコンテンツ
  • コンバージョンを促すコンテンツとCTA検討

広告ではウェブサイトと異なり、広告とランディングページの両輪で考える必要があるため、双方がうまく連動するように留意する必要があります。

SNSでの段階的開示の活用

SNSプラットフォームごとに独自の特性と利点があります。例えば「X(旧Twitter)」は新しいポストが表示され、都度話題性を引き込むフロー型のSNSとなり、Instagramは過去のフィード、リール、ハイライトなどのコンテンツをみることができるストック型のSNSと言えます。
Webマーケティングで段階的開示を行っていく場合はこの独自の特性と利点を把握すると同時に、利用できる「機能」を使うとより効果的に行うことが可能です。

SNSプラットフォーム別の活用方法

Instagram

Instagramは画像、動画の双方の活用ができビジュアル性に優れています。その点クリエイティブが低い、インパクトや訴求力が乏しい場合は成果が出にくい場合もあるためこの点に留意しましょう。

  • ストーリーズを活用した時系列開示
    • 24時間限定コンテンツ
    • ハイライト機能での永続化
  • フィード投稿での段階的展開
    • 視覚的なストーリーテリングに仕立てる
    • カルーセル投稿の活用
    • 投稿の時間差配信

X(旧Twitter)

Xはフロー型のSNSであるため過去のポストが再度表示されることが少ない媒体です。リアルタイムで段階的に情報を開示し続けることがインプレッションとリーチに繋がります。また「引用」をすることで、過去のポストを再度みてもらうことが可能になります。ユーザーにリポストしてもらえるようなキャンペーンも認知拡大になります。

  • ポストを利用した情報開示
    • 情報を段階的にポスト
    • リアルタイムアップデート
    • 過去のポスト引用し情報のアップデート
    • 時事ハッシュタグの付与
    • ランディングページURLの貼付
  • ハッシュタグ・リポストを利用した開示
    • リポストやハッシュタグキャンペーン
    • ユーザー参加型の展開

効果的なSNS展開のポイント

施策 実施方法 期待効果
情報配信スケジューリング 開示する情報を計画的に投稿ができるようにスケジュールを管理
決まった曜日に段階的な開示をする方法を検討
定期的に抜け漏れなく情報開示し、定めた日時に閲覧をされやすくする
クロスメディアの展開 ターゲットに合わせた複数SNSでの情報発信 インプレッション・リーチの最大化
インタラクション促進 キャンペーン・投票などユーザー参加型コンテンツの設計 エンゲージメント向上

SNSからのランディングページを用意する際のポイント

最終的に何を達成するのかという目的に応じてウェブサイトやランディングページを用意します。SNSからウェブコンテンツへランディングする場合は、その目的に応じてにはなりますが通常のものと特性が異なる場合がありますので紹介していきます。

  • 1. SNS流入データの確認

      過去にSNSの流入したデータの確認ができる場合は必ずアクセスデータのチェックをしましょう。SNSからの流入では通常の検索流入などとは異なる特性あるケースが存在します。下記の指標をチェックするとよいでしょう。

    • 平均エンゲージメント時間
    • セッションあたりのページ閲覧数
    • エンゲージメント率
  • 2. 最終ゴール位置と配慮

      SNSからの流入では主な流入デバイスはモバイルになります。非常に長いページの場合は高い興味・関心があったとしても途中で離脱する場合があります。そのため、最終的なゴールに到達してもらうための位置や配慮が必要です。

    • ページ上部にもフォームを設置
    • 購入や入会などの最終目標がすぐにわかるボタン配置
    • 画面上部または下部に固定でボタンなどの配置
  • 3. エンゲージメント促進

      スマホの場合は通信速度、画面の幅など、大きな画面で表示できるパソコンとは異なり短い時間で必要な情報を閲覧を求められます。特性としては「複数のページを閲覧せずに離脱」「定められた画面内での情報の閲覧しやすさ」「短時間で興味・関心の引きつけ」「欲しい情報の取得速度」が重要です。そのため以下のポイントをチェックするとよいでしょう。

    • モバイルに最適化された画面構成であるか
    • ページ上部に欲しい情報が入っているか
    • 情報が冗長ではなく、十分に伝わる内容であるか
    • スワイプなどスマホ独自の操作でコンテンツを端的に見せられるか

SNSは主にスマートフォン端末でのアクセスが多いため、、その端末に合わせた画面構成、操作に注力し、ユーザーが好ましいと思う、インターフェイス(UI)と体験(UX)を提供できるかを検討するとよいでしょう。

まとめ

段階的開示-ARCSモデルは、ウェブなどのデジタル領域で、すでに活用をされています。今後も仕組みや効果をはっきりと理解することでホームページの制作、ウェブ広告、SMS配信などウェブマーケティングの領域で十分に利用することできます。

特にウェブに関しては新しいメディア、技術、表現など、変化をしていきます。この変化の中に置いても、段階的開示のような方法を活用することが可能です。事実インターネットが普及する以前からも雑誌、販促物、ラジオ、テレビでこの手法はとられてきました。
どのように活用するかはアイデア次第です。この記事をきっかけに新たな手法として活用いただけると幸いです。

0円からはじめるWebマーケティング運営
0円からはじめるWebマーケティング運営者 https://zero-marke.jp/

Webの仕事に20年以上携わり、Web戦略支援、Webマーケティング、Webサイト制作、Webメディアの運用、Web広告の設計から運用などを担当。ナショナルクライアントから中小、ベンチャー、個人事業主までさまざまなクライアント様の仕事に従事。

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