Web広告を配信したのに「広告は表示されているのにクリックされない」「お問い合わせが全然こない」「費用対効果が悪い」ということはありませんか?広告代行業務の現場では常に「負けられない戦い」のような雰囲気が漂っています。
この記事ではWeb広告を配信する前に、考えておきたい方向性(戦略)、配信する広告の内容と配信後の確認(分析)、広告で成果をだしていくための改善方法を紹介していきます。
成果をだしていくための改善
Web広告で成果をだすためには「総当り」の広告戦略では難しく、顧客のニーズ、他社との差別化を把握したうえで、広告パターンを作り、配信後も評価・改善ができる環境と体制を作ることが重要になります。
上流であるWeb広告戦略を行い、中流の広告パターン作成、配信から、下流の広告評価・改善までのPDCAのロジックを作り上げることで成果に結びつけやすくなります。
事実、この方法で成果がでています。すべての広告で成果を出す万能薬ではありませんが、Web広告の成果への一助となると思います。

はじめにWeb広告は「STP」で考える
Web広告をはじめる時にまず行うことは「方向性」を決めることです。
方向性を決めていないということは、船に乗っていく先も方向も決まらずに航海に出るようなものです。「目的地」「地図」「羅針盤」が無ければ、何のために船に乗っているのか分からないのと同じです。
つまり目標達成となる成果がだしにくいということです。ではどのように方向性を決めればよいのか。
ここでは基本戦略を決める3要素「STP」を使います。3つの要素である「S:セグメンテーション」「T:ターゲティング」「P:ポジショニング」をそれぞれ決めていくと後の工程がスムーズです。
- セグメンテーション: 「広告を配信する基盤」を決める工程です。Web広告においては「キーワード」「広告媒体」といった要素を分類していきます。この分類をすることで、競合性、想定競合がわかるようになります。
- ターゲティング: 「狙うべき見込み顧客」を決める工程です。配信エリア、年齢、家族構成といったベーシックな情報から、商品・サービスの購入方法、利用状況、購買行動を知ることで、時にはカスタマージャーニーマップ、ペルソナを作成し狙うべき相顧客を明らかにします。
- ポジショニング: 「サービスの利用・商品の購入動機」を定めていく工程です。ユーザーのニーズ、想定競合との差別化ポイントを把握します。競合との優位性・差別化ポイントの分析はVRIO分析で詳しく紹介しています。
例えば、「車の販売店」の広告担当だったとします。新しく発売したミニバンの売上を伸ばすためにWeb広告を行うことになりました。この時、簡単ではありますが、下記のようなSTPが考えられます。
- セグメンテーション: キーワードは「ミニバン 新車」「メーカー名+新車」「新車 安い」「suv 新車」などを抽出しました。広告媒体は過去のデータからリスティング広告、Instagram広告。
- ターゲティング: 既婚・未婚、30代~40代、エリアは店舗から半径15km以内。家族構成が変わった、収入増加などを理由に、ネット検索で情報収集、電子カタログなど製品特設ページを閲覧後に来店予約、試乗、購入。
- ポジショニング: ニーズ:家族で利用できる車に買い替えたいなど。差別化ポイントは同じクラスの車種と比べて価格優位性があり、デザイン性と安全性がポイント。ただ燃費、乗り心地、走行性能も負けていない。
簡単ではありますが、このようなSTPに分けて記載をしていくと、「どこの」「誰に」「どのように」「何を」「どうすれば」というのが分かる安くなったかと思います。
このSTPはWebマーケティングの基本戦略で利用しますので、Webサイト制作などの際も活用できます。
広告配信ロジックの土台を作る
STPで配信を行うための方向性がある程度見えてきた状態になりました。次にどのような広告を作るのかを洗い出します。
洗い出しは顧客の「ニーズ」、自社の「シーズ」に分けて考えるとまとまりやすいと思います。
- ニーズ: 「より良く、満足できる状況にしたい」「不満、問題を解決したい」という要望や欲求。
- シーズ: 独自の技術、ノウハウで付加価値をつける、コストダウンの実現という自社の強みを指します。
ニーズの例
不満・問題: 夏に部屋が暑くて困っている
⇣
解決方法:扇風機を買ったら涼しくなった
⇣
満足したい: 扇風機で涼しくなったが、部屋を移動する時に暑い
⇣
解決方法: エアコンを買ったら部屋全体が涼しくなった。扇風機と併用するともっと快適
シーズの例
機能的な付加価値では、あるスポーツ用品製造する企業では、スポーツ用品で培った技術・ノウハウを使い、通気性・速乾性が良く、動きを阻害しにくい作業着を提供をしています。
他の作業着を製造しているメーカーではスポーツ用品のノウハウが無いため、このメーカーほど通気性・速乾性、動きを阻害しない作りをするのが難しく、機能性において優位性があるといえます。
2つのセグメンテーションツリーを作る
ニーズとシーズの洗い出しができたら次に2つのセグメンテーションツリーを作成します。
このセグメンテーションツリーはニーズ、シーズのみで構成するのもよいですし、ニーズ・シーズの2つを使う構成でも構いません。おすすめは「ニーズ・シーズ2つを使う構成」です。
考え方としてはニーズ主体のマーケットインであるか、シーズ主体のプロダクトアウトにするか、その折衷案であるか。この視点で検討するとよいでしょう。
先ほどの「はじめにWeb広告は「STP」で考える」の中で例とした「車の販売店」のセグメンテーションツリーは以下のようなものが考えられます。
- ニーズ: 家族あり、独身の2軸で「家族あり」の場合は「日常の買い物」「観光・レジャー」「ドライブが趣味」がニーズとしてあり、独身も同様のニーズとした
- シーズ: 「価格」「デザイン性」「安全性能」「燃費」「乗り心地」「走行性能」とした

2つのセグメントでマトリクス図を作る
セグメンテーションツリーが完成したら2つのセグメントを掛け合わせたマトリクス図を作成します。
マトリクスにすることでこれから配信するWeb広告を漏れなくダブりがない状態を作り出すことができます。
2つのペルソナに3つのニーズ、6つのシーズを組み合わせて下記のマトリクス図になります。
| ニーズ\シーズ | 価格 | デザイン性 | 安全性能 | 燃費 | 乗り心地 | 走行性能 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 家族 日常の買い物 | ||||||
| 家族 観光・レジャー | ||||||
| 家族 ドライブが趣味 | ||||||
| 独身 日常の買い物 | ||||||
| 独身 観光・レジャー | ||||||
| 独身 ドライブが趣味 |
広告予算と配信の優先順位を付ける
広告予算、配信の優先順位に取り掛かりますが、先ほど作成したマトリクス図を使います。
今回はシーズをベースに優先順位を付けました。優先順位の付け方ですが、CVの確度が高い順に付けていくのがベストです。
この確度を決める作業は事前にリサーチを行うか、過去の購買データを参考にするなど、何かしらの資料が必要になります。もし参考にする資料がない場合は営業、販売担当者を交えるなど自社のノウハウを生かす方法も模索します。
| ニーズ\シーズ | 1.価格 | 2.デザイン性 | 3.安全性能 | 4.燃費 | 5.乗り心地 | 6.走行性能 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A.家族 日常の買い物 | A1 | A2 | A3 | A4 | A5 | A6 |
| B.家族 観光・レジャー | B1 | B2 | B3 | B4 | B5 | B6 |
| C.家族 ドライブが趣味 | C1 | C2 | C3 | C4 | C5 | C6 |
| D.独身 日常の買い物 | D1 | D2 | D3 | D4 | D5 | D6 |
| E.独身 観光・レジャー | E1 | E2 | E3 | E4 | E5 | E6 |
| F.独身 ドライブが趣味 | F1 | F2 | F3 | F4 | F5 | F6 |
今回のマトリクス図では6×6の36パターンがあります。広告予算は限られており、競合がより潤沢な予算がある場合、自社の広告がパフォーマンスが出ない可能性があります。
初期に実施する広告をどのセグメントにするかは検討をしましょう
テストマーケティングを行う必要性
どこのセグメントに広告予算を割り振るかで重要となるのが、テストマーケティングです。
「テストマーケティング」とは新しい商品やサービスをリリースする前に、期間、地域を限定して試験的に販売をすることです。
Web広告も同様で過去のデータがない場合テスト配信を行い、広告のセグメントで設定した「キーワード」「広告文」「クリエイティブ」「ターゲティング」などが外れていないか確認する作業です。
キャンペーンなど実施できない場合もあり、また季節性の高い広告では実施が難しいことがありますが、テスト配信を行わない理由がないようであれば、必ずテスト配信を行うようにしましょう
テスト配信後は微調整を行う
テスト配信した後は、そのフィードバックを行い広告の設定を見直しましょう。見直し方についてはこの後の「広告の結果をスコア化」「Web広告の評価と改善」を参考にすると見直すポイントを定めることが出来ると思います。
予算が限られてすべての広告パターンが難しい場合
テストマーケティングを実施が難しく、限られた予算で広告の成果を求める場合は、予算集中した広告配信という選択が有効な場合があります。
例えば確度が高いと思われる「家族あり」の広告配信パターン「A1」「A3」、独身は「F1」「E2」に予算を集中させるという例が考えられます。
メリットは上記の通り、少ない予算で配信するため、成果が出た場合の費用対効果が高い点です。デメリットとしては、その配信パターンを外した場合は費用対効果が低くなります。
このあたりは担当者の差配次第ですが、成果がでにくい広告を見極めて、すぐに別の広告セグメントに変更を行うなどの対応をすることで、広告のパフォーマンスを上げることが可能です。
広告の結果をスコア化
配信したWeb広告の結果をスコアにします。スコアとはKPIによりますが、ROAS(広告の費用対効果)を計算します。
ROAS(ロアス)とは
ROAS(ロアス)とは使用した広告費に対して売上がどれほどの割合であるかを計算して、どれほど広告の効果があったのかを知るための重要な指標です。
ROASの計算方法
ROAS = 広告経由の売上 ÷ 広告費用 × 100%
ECサイトで例えるとROASがわかりやすく計算できます。
- 広告経由の売上100万円
- 広告費用50万円
- ROAS 200%(100万円 ÷ 50万円 × 100%)
ECサイト以外のROASの出し方
ECサイトのように、売上がすぐに確認できるビジネスであればROASが出しやすくなりますが、それ以外の事業の場合はどうでしょうか。
考え方は変わりません。問い合わせ→商談→契約(売上)のプロセスだとしても、広告経由の問い合わせが契約(売上)になったかをウォッチするだけです。
広告のコンバージョンが問い合わせの場合は最終的に契約まで至ったかの確認を忘れないようにしましょう。
ROASとROIの違い
ROASが売上に対する費用対効果であるのに対してROIは利益に対する費用対効果を出す指標で、下記の計算式で求められます。
ROI = 広告経由の利益 ÷ 広告費用 × 100%
この「利益」というのは下記のように表す事もあります。
ROI = 広告経由の売上総利益(売上-売上原価) ÷ 広告費用 × 100%
原価が分かる場合はROAS、ROIの両方を出すと広告のパフォーマンスを明確に把握することができます。
スコア化する際の指標
スコア化する際の指標はGoogle広告、Yahoo!広告、META広告マネージャーなどの広告ツールからデータを取得し、広告のランディング先のサイトはGA4などのアクセス解析ツールから取得をします。
スコア化に使う指標は参考としては下記の一覧の指標であれば、どのツールでも概ね取得が可能です。一部のツールでは定量データではなく、定性データで評価する指標があります。
広告ツール毎に意味合いが異なりますので、定性的な評価は広告の運用に合わせて評価軸としてください。
- 広告費: 広告配信費用
- 表示回数(インプレッション): 広告が表示された回数
- imp単価: 広告の表示回数1回に対するコスト
※状況に応じてCPM(1000回広告が表示されたコスト)などは状況に応じて使いやすい指標利用します。 - リーチ: ユーザーが広告を見たユニーク数 インプレッション数は同一ユーザーが見た回数がカウントされるのに対して、リーチは複数回広告が表示されたとしても1回だけカウントされます。
- クリック数: 広告をクリックした回数
- CTR(クリック率): 表示に対して、クリックされた割合を示す指標「CTR = クリック数 ÷ 表示回数 × 100%」」で計算できます。
- CPC(クリック単価): 1クリックあたりの単価「CPC = 広告費 ÷ クリック数」で計算できます。
- セッション: サイトにアクセスし、サイトから離れる(離脱)までを1カウントとしますが、Webサイトにアクセスした回数とするとわかりやすいでしょう。
- CV(コンバージョン)またはキーイベント: Webサイトの目標を達成した数。目標はECサイトでは「商品の購入」コーポレートサイトでは「資料請求」「お問い合わせ」などを指します。
- CVR(コンバージョン率: CVまたはキーイベントの達成率。広告のクリック数、動画視聴数、セッション数に対してCVをした割合を示す指標「CVR = CV数 ÷ クリック数 × 100%」」で計算できます。
広告媒体に対するCVRにするのか、ランディング後のWebサイト側でCVRを計算するのかは状況に応じて使い分けます。 - CPA(コンバージョン単価): コンバージョン1件あたりの単価「CPA = 広告費 ÷ CV数」で計算できます。
- 売上(収益): 広告経由での売上
- ROAS(費用対効果): 広告の費用対効果「ROAS = 広告経由の売上 ÷ 広告費用 × 100%」で計算できます。
Web広告の評価と改善
Web広告配信後、スコア化が出来た状態で、評価しても問題はありませんが、複数の広告を配信している場合に、どの広告やLP(ランディングページ)を改善するかを悩んだことはないでしょうか。
いままでの知識や経験に基づき判断するのころは優れたマーケターならばできる場合もありますが、何かしら判断基準があると改善根拠にもなり、関係各所への説明、改善要請が容易になるケースがあります。
いくつかある判断基準の方法を紹介します。
クラスター分析の実施
クラスター分析とは、特徴の異なる集団の中から類似したものを集めて、類似性のある集団に分類する方法です。
X軸、Y軸に先ほどスコアリング指標を基にそれぞれ当てはめます。そうすることで数字を元にした集団をある程度作ることができます。
集団(クラスター)の数は4つにします。この4つは重要ですので必ず4つに分けましょう。

ポートフォリオ分析で評価する
先ほどのクラスター分析で4つのクラスターに分けたら次にプロダクトポートフォリオにして評価を行います。
ポートフォリオ分析とは製品やサービスの満足度調査などに用いられる手法です。この手法を広告の評価軸として活用します。
4象限の各評価項目
ポートフォリオ分析の4象限はそれぞれ下記のように定義がされています。
- 第1象限エリア: 満足度、重要度が高く、パフォーマンスに優れる
- 第2象限エリア: 満足度は高いが、重要度が低いため、重要度の改善が求められる
- 第3象限エリア: 満足度、重要度が低く、パフォーマンスが悪い
- 第4象限エリア: 満足度は低いが、重要度が高いため、満足度の改善が求められる

配信したWeb広告を評価する
上記ポートフォリオ分析に合わせて配信した広告の評価を行います。
評価で重要なことは「どの指標」をX軸、Y軸に設定するかということです。例えばクリック数 × コンバージョン率の掛け合わせたポートフォリオであれば以下の図になります。

この分析では集団ごとのパフォーマンスが見れますが、Y軸、X軸の指標を何に設定するかで、見えてくる改善ポイントが変わってきます。もちろん確定した改善点ではないため、その他のデータと合わせて、改善するのか検討が必要です。
以下はポートフォリオの評価軸の参考例です。
広告の評価「表示回数×クリック率(数)」
表示回数とクリック率を軸としたポートフォリオ分析です。この結果から「第4象限 金のなる木は」ニッチなキーワードではあるが、確かなニーズがあることが分かります。
これがキーワードの設定で母数が少ないものが設定されている場合は想起ワードなどを入れることで「花形」へ変わる広告もありそうです。
第2象限の問題児は検索はされているがニーズがアンマッチの可能性が考えられます。「広告予算と配信の優先順位を付ける」で行った広告のマトリクス図の縦軸、横軸を変えて広告配信を検討するのがよいでしょう。
- 第1象限:検索母数多、キーワード・広告マッチ度高、ニーズ喚起OK(花形)
- 第2象限:検索母数多、キーワード・広告マッチ度低、ニーズ喚起NG(問題児)
- 第3象限:検索母数少、キーワード・広告マッチ度低、ニーズ喚起NG(負け犬)
- 第4象限:検索母数少、キーワード・広告マッチ度高、ニーズ喚起OK(金のなる木)
ランディングページ(LP)を加味した広告の評価「クリック数×エンゲージメント率」
クリック数をY軸、X軸にエンゲージメント率としたポートフォリオ分析です。
「第2象限の問題児」ではクリック数が多いにもかかわらず、エンゲージメント率が低いという結果です。この場合は広告内容は興味があってクリックをしたが、クリックした先のランディングページに魅力を感じずに直帰してしまった。または広告をクリックした時の期待と、クリック先のページを見たときに期待に沿えなかったケースが考えられます。
この場合は広告の説明文とランディングページの内容で齟齬が無いかの確認をすることで改善されるケースがあります。
- 第1象限:クリック多、広告とLPマッチ度高(花形)
- 第2象限:クリック多、広告とLPマッチ度低(問題児)
- 第3象限:クリック低、広告とLPマッチ度低(負け犬)
- 第4象限:クリック低、広告とLPマッチ度高(金のなる木)
他にもポートフォリオ分析を利用したWeb広告の評価、改善点の見方がありますので、実施する広告に合ったパターンを確立すると、広告配信、評価、改善がスムーズになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。「Web広告戦略-成果をだすための分析と改善」では方向性(戦略)、広告内容と確認(分析)、広告で成果をだしていくための改善方法を紹介いたしました。
Web広告だけではありませんが、設計フェーズを一定期間設けて、どのように広告を配信するのかを検討することが重要な要素になります。
もちろん「拙速は尊ぶ」というように、機会を逃さずにすぐさま広告配信するケースもあります。しかし、ある程度広告配信のロジック、配信パターンを事前に把握しておけば、広告成果を上げやすい状況を作りやすくなります。
特に「セグメンテーションツリー」「マトリクス」「ポートフォリオ分析」の他のWeb施策にロジックは流用しやすいため覚えておくとよいでしょう。